最近、パートのサービス残業が問題になったりしていますね。
それも、何時間とかいう大きな話ではありません。
着替える時間とか、端数の切り捨てというレベルの話です。
ところが働く側からすると、5分や10分単位の切り捨てでも結構モチベーションが下がってしまうようです。
一見小さな話ですが、給料の計算の仕方というのは、従業員のモチベーションを下げない方法として有効な要素です。
今回は、ある非専門職の派遣会社での給料計算方法が問題になっている件を例にお話したいと思います。
パート・アルバイトのサービス残業問題
この派遣会社の給料計算は、お給料が15分単位で計算されています。
15分以内の残業は切り捨てになり、29分とか44分にタイムカードを切ってしまうと、14分はサービス残業になります。
ところが従業員の心理としては、分単位の時間に追われながら全力で仕事しているような仕事なので、1分の重みが違うという感覚のようです。
更に、「着替えの時間」や「準備の時間」の評判が悪いです。
この会社では、15分区切りの他に5分の「着替え時間」を加えて、その時間以内にタイムカードを切ってしまうと、やはり切り捨てになってしまいます。
つまり、15分+5分で、20分単位の切り捨てという事になりますね。
この切り捨てで残る利益と、従業員のモチベーションが下がってしまうこと、天秤にかけたらどっちが重くなると思いますか?
派遣業は時間を売る仕事??
結論を先に言ってしまいますと、給料の切り捨てなどの「経費節減」をして売上を残そうとしても、大した結果は得られません。
手っ取り早く小さな利益が残るだけで、むしろ長期的にはジリ貧になってしまう恐れがあります。
どういう事かというと、それは利益の源泉である「パフォーマンス」を下げてしまうからです。
経費を削減すればパフォーマンスが上がるのだとすれば、それはパフォーマンス=売上だと勘違いしているのではないでしょうか?
人材派遣業は、人材の時間を売っているのではありません。
人材が生み出す「パフォーマンス」が商品です。
1日8時間という「人の拘束時間」を売買しているのではなく、人が8時間かけて生み出す価値(アウトプット)が本当のサービスですよね。
でも労働時間の端数を切り捨てるというやり方は、いかにも時間を切り売りしていて、従業員にオマケさせているような感じがします。
それよりも、従業員のパフォーマンスを上げる方向に舵を切らなければ、ますます厳しい競争に巻き込まれてしまいます。
でも、パフォーマンスを上げるには、大きな投資が必要だと思っていませんか?
質の良い人材を残すには?
従業員のパフォーマンス向上というと、研修や講習、カウンセリングなどのサポートが必要だという話が聞こえてきそうです。
でも、人材派遣会社が人材を育成していたのでは、いつまで経っても利益なんて見込めそうにありませんよね。
話はもっと簡単です。
従業員の質を上げるのに、投資は必要ないんです。
従業員のモチベーションを下げないように、辞めさせないようにすれば良いだけです。
定着率の悪い職場というのは、従業員にとって悪なだけではありません。
いつまで経っても従業員のスキルが積み上がっていかないので、会社にとっても損失なんです。
仕事というのは、何年も従事すれば熟練度が上がっていくものです。
特別能力が高い人でなくても、一定の時間をかければスキルは身に付いていきます。
その為に、会社は従業員のモチベーションを管理して、長続きさせてあげるお手伝いをしなければなりません。
ここで、最初に述べた給料計算の話を思い出してください。
仮に、給料をタイムカード通りに1分単位で支給したとします。
それで すぐさま従業員のやる気が上がる、とは言いません。
でも、少なくとも15分区切りで端数は切り捨てるという方法で、従業員のモチベーションが下がっているというのは事実です。
ただ、この給料形態に嫌気がさしたとしても、実際に辞めるのは「全員」ではありませんよね。
モチベーションが下がっているのは、どちらかと言えば自分に自信のある人だと思います。
能力のある人ほど、ケチな扱いを受ければバカらしくなって辞めてしまいます。
そして、このやり方でも やる気が落ちない、もしくは耐えられるのは「他でやっていく自信が無い」とか「どうせ自分はこの程度だろう」というような自己イメージが低い人だけです。
とはいえ、サービス業や軽作業などの非専門職の人材の場合、定着率はあまり関係ないのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
ここで、人材派遣業を他の商売になぞらえて、離職率が高い事のデメリットを説明したいと思います。
人材派遣業にとっての顧客とは?
商売というのは、リピーターになってくれる顧客の確保が利益の源泉になりますよね。
では、人材派遣業にとってのリピーターとは誰でしょうか?
一般的には派遣先の企業という事になっていますよね。
でも、この考えでは価格競争に飲み込まれる恐れがあります。
では、人材派遣業にとってのリピーターを誰と見るのが良いのでしょうか?
それは、従業員やパートである「人材」です。
パフォーマンスが出せる人材さえ確保できれば、派遣先への営業に困る事はありません。
だから、この人たちに契約を更新し続けてもらう事が、じつは人材派遣業にとっての利益の源泉となります。
理想の人材派遣業モデル
人材派遣業の話というのは、どうしても抽象的になりがちなので、ここで ちょっとメーカーに例えてみたいと思います。
まず、人材派遣業にとっての「求人の募集」は、商品の広告費に該当します。
そして、離職率の高い職場というのは「イマイチな商品」です。
イマイチな商品というのは、繰り返し広告を打たなければ売れないので広告費が嵩み、売上を圧迫してしまいます。
ところが、良い商品は口コミで人気が広がります。
少ない広告費でも商品が売れ続けるので、利益が残ります。
では、人材派遣業にとっての「良い商品」とは何でしょうか?
それは、まず「人が辞めない職場」である事です。
人が辞めたがらないような職場は、従業員が知り合いも紹介してくれます。
既存の従業員が辞めない上に、知り合いも連れてくるので、求人の募集をしなくて済みます。
そしてもう一つ「従業員のパフォーマンスが高い」という事です。
人材のスループットが他社より高い事をアピールできれば、営業も楽になります。
これが、人材派遣業の理想の形です。
では、質の良い従業員を繋ぎ止めて、口コミで人が入ってくるようにするには、どうすれば良いのでしょうか?
給料計算も良い広告になる!?
どんな人にでも知り合いの20~30人くらいはいるものです。
それだけではありません。
最近ではSNSやブログなど、匿名で情報発信できる手段がいくらでもあり、中でも悪評の拡散する速度には目を見張るものがありますよね。
これからは、ブラックな企業が生き残れる時代ではなくなるでしょう。
こういう環境下で、いまの時勢で叩かれそうな給料計算の仕方をしているのは得策ではありません。
みすみす逆広告をしているようなものです。
逆に言えば、早い段階で1分単位でタイムカード通りの給料を支給すれば、良い宣伝効果が得られます。
今の従業員だけで留まらず、その人たちがツィッターでつぶやく事で100~500人にアプローチする事ができます。
特にセンスがあるわけでもない人でも、ひと月に1万人近くの目にふれるブログを書く事も可能な時代です。
ただ、皆がやり初めてからでは遅いかもしれません。
この事に気付いている企業は、とっくに動き出しています。
従業員のモチベーションを下げない方法は、小さなケアの積み重ねです。
中でも給料の支払い方は、従業員へのアピールポイントとして有効な手段だと思います。